がんの放射線治療後の免疫力について

日本放射線腫瘍学会より一般の方へ、がんの放射線治療後の免疫力について声明を出させていただきました。

がんの放射線治療後の免疫力について

女優の岡江久美子さんが新型コロナウイルス肺炎で亡くなられました。心よりお悔やみ申し上げます。

この件に関して、ニュースやワイドショーなど多くの TV 番組その他で「乳がん手術とその後の放射線治療により免疫力が低下していたのが重症化した原因ではないか」といった報道がなされました。今まさに放射線治療を受けておられる患者の方々、これから放射線治療を受ける予定の方々に大きな不安と動揺を与えかねない報道であると受け止め、ここにまずがん放射線治療を専門とする学会として、「早期乳がん手術後に行われる放射線治療は、体への侵襲が少なく、免疫機能の低下はほとんどありません。」と表明いたします。

一般的には、初期の乳がんの手術後の放射線治療で免疫力が大きく下がることはまずありません。免疫を担う白血球などは、骨髄で作られますが、乳がんの放射線治療で照射される骨髄はわずかであり免疫力の低下は考えにくいからです。NHK の報道によると、日本乳癌学会の井本滋理事長も「放射線治療を受けた患者で、まれに肺が部分的に炎症を起こすことや、免疫をつかさどる白血球が減少することもあるが、新型コロナウイルスによって重症化する原因になるほど、免疫力が下がるとは考えにくい。同様の治療を受ける患者さんについては感染予防を徹底する必要はあるが、過剰な不安は抱かないでほしい」とのコメントを出されています(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200423/k10012401871000.html)。

もちろん、予防的に広い範囲で放射線を照射した結果、骨髄の働きが悪くなり、白血球が減って、免疫力が一時的に低下するケースがないわけではありません。とくに、放射線と抗がん剤を同時に組み合わせる化学放射線療法では、その影響も無視できません。ただ、多くの放射線治療では通院で治療が終わり、免疫力の低下はほとんどみられません。一方で手術のあとに放射線治療を行うことで、乳がんの再発のリスクが減ることは科学的に証明されています。

岡江さんの報道で、不安を感じる患者様や市民の方々もおられると思われますが、放射線治療専門医が適切に対応すれば、まず問題ないことをご理解頂き、安心して治療を受けて頂きたいと思います。

放射線治療は手術、薬物療法と並ぶとても大切ながん治療法です。日本では年間約 30 万人の方が受けています。早期がんから進行がんまで、体の調子の良い方はもちろん、具合の悪い方、他の病気があったり、年齢的に他の治療が難しい方まで、さまざまな種類のがんに対して幅広く放射線治療が行われています。また、手術や薬物療法と組み合わせて行うこともあります。最近では科学技術の進歩により放射線治療は急速に進歩し、高精度放射線治療と呼ばれるようになりました。治療の効果が高まり、さまざまながんで治療成績が向上してきました。そして一方で、治療による副作用、後遺症など患者様の苦痛はますます少なくなってきました。

日本では放射線というと怖い、危ないというイメージが先行しますが、その放射線をがんに集中させて上手に使っているのが放射線治療です。本来、からだへの負担が少ない治療法で、がんを治療しながらがんのまわりの正常組織の機能や形態を温存できるのが放射線治療の特長です。がんを治すことから、がんによる苦痛を緩和して、質の高い生活を長く続ける目的まで、今では多くの方々が外来での通院治療を受けられるようになりました。一般的な放射線治療では、からだの免疫力が大きく低下するようなことはほとんどありません。

日本放射線腫瘍学会はこれからもがん患者の方々へ最先端の放射線治療が提供されるよう努めてまいります。まだまだ人数は少ないですが、患者の皆様には放射線治療を専門とする医師、診療放射線技師、医学物理士、看護師などが協力して、一人一人の放射線治療が安全かつ確実に進められるよう支えています。私たちはこれからも常に患者様に寄り添い、そしてがん診療に携わるすべての医療者と共に歩み続けます。

令和 2 年 4 月 25 日

公益社団法人 日本放射線腫瘍学会

原文)https://www.jastro.or.jp/customer/news/20200425_2.pdf

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